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ベンチャーやスタートアップとは違う、中小企業の可能性が持つ可能性について、ここ数年、注目度が高まっているように感じます。大手ITベンダーなどもSMB(Small & Medium Business)と呼んでこの市場性に注目しています。日本の中小企業にとって今後、何が大切でしょうか。
岩本それには日本の中小企業の歴史的背景を踏まえておくことに意味がありそうです。日本は第二次世界大戦後、量産型製造業のビジネスで経済成長を遂げてきました。日本の大企業が大きな資本を調達して大きなアセット(資産)をもち、最終製品を作ってグローバルにビジネスを展開し、それらの大企業を多くの中小企業がいわゆる“下請け”として下支えをする業界構造で、1979年には、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』[1]という書籍が出版されるまでに日本経済は成長したのです。
清水なるほど。いわば大企業と中小企業がセットになって成長を実現するという構造ですね。
岩本そうです。しかし、1992年2月をピークに日本経済が失速し、量産型製造業は韓国、台湾、中国、東南アジア諸国など他のアジア諸国に流出し、エレクトロニクス業界を中心に多くの量産型製造業が壊滅状態になりました。図表1に日本企業が世界シェアの大半を握っていた製品の世界シェア推移[2]を示しましたが、多くのエレクトロニクス製品で日本企業がシェアを失いかけています。「失われた〇年」という言葉がよく使われますが、2000年代前半に「失われた10年」という言葉が使われ、その10年度には「失われた20年」という言葉に変わり、更にそれから5年が経過しています。
図表1.日本が強かった製品の世界シェア推移
清水大企業が大きなアセットをもとに量産型製造業で勝ち、それを下請けとしての中小企業が支えるというモデルの終焉なのでしょうか。
岩本はい。量産型製造業を展開してきた大企業だけでなく、それらの大企業を下支えしてきた中小企業も大きな業態転換の必要に迫られています。図表2に日本の大企業、中小企業、小規模企業の基礎データを示します[3]。日本には中小企業は55万7,000社あり、中小企業で働く従業員は2,234万1,244人と、日本で働く従業員全体の46.6%を占めており、中小企業のビジネスが失速することは日本の雇用にも大きな影響を及ぼすことは間違いありません。
図表2.日本の大・中小・小規模企業の基礎データ
清水このような環境下で、中小企業をどう捉えるのがよいでしょうか。
岩本前提として、日本では、「中小企業=大企業の下請け」という考え方が染みついていますが、経営学的には、
であり、大企業と中小企業とはビジネスの特性が異なるだけで、下請けであるかどうかに意味はありません。
ちなみに、日本では、中小企業とスタートアップ*とが混同されることが多々見られますが、中小企業とスタートアップとも経営学的には全く異なるものです。
であり、スタートアップは、基本的に、中小企業ではなく大企業になることを目指すことを前提としていることが特徴です。この違いを踏まえることがまず重要です。
清水そのうえで処方箋はありますでしょうか。
岩本経営学の定義をベースに考えると、量産型製造業が激減した日本で、大規模のアセットを活用した方が効率のいいビジネスはこれからどの程度存在するでしょうか。
むしろ、今後の日本のあるべき産業構造を考えると、中小規模のアセットを活用した方が効率のいいビジネスを多く創っていく方が現実的であり、中小企業が、大企業の指示通りビジネスを展開するという下請けの考え方をやめ、中小規模だからこそ効率のいいビジネスを創造していくことが日本経済全体にとっても重要だと考えます。
欧米諸国は、日本企業が世界市場を席巻した1980年代から産業構造転換に取り組んでおり、ドイツ、スイス、イタリアなどでは、自国の経済を“強い”(=平均給与も利益率も高い)中小企業が支える構造になっていますが、中小企業を正しく定義したうえでこれらの欧州諸国のように、強い中小企業を多く創出することが日本にとって重要な出発点になると考えます。
清水ありがとうございました。
【参考文献】
[1] Ezra F. Vogel, Japan as Number One: Lessons for America, Harvard University Press (1979)
[2] 小川紘一、国際標準化と事業戦略-日本型イノベーションとしての標準化ビジネスモデル、HAKUTO Management(2009年)
[3] 総務省統計局、平成26年経済センサス(2015年)
岩本 隆|慶應義塾大学大学院 経営管理研究科特任教授
東京大学工学部卒業。UCLA博士課程修了(Ph.D. in Materials Science and Engineering)。モトローラ、ルーセント・テクノロジー、ノキア、ドリームインキュベータ(執行役員)を経て、2012年より現職。成長企業の戦略論、新産業創出に関わる研究を実施。
清水 隆史
株式会社プロコミット 代表取締役社長
早稲田大学法学部卒業。ベンチャー企業の経営企画室長としてIPO達成後、ドリームインキュベータに入社。企業の成長戦略、資金調達、組織改革、新規事業のコンサルティングに従事。2005年より現職。成長企業の中途採用支援を行う。
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Topics: 成長企業の採用論