未踏クリエーターが語る「技術の未来」

「エンジニアチームの国際ダイバーシティ」という未来

未踏クリエイターの竹井悠人さんから、「私がマネジメントしてた10数名のエンジニアチームは、8か国の国籍から構成されていたんですよ」という興味深い話があり、「エンジニアチームの国際ダイバーシティ」というテーマでお話をうかがいました。

竹井 悠人
株式会社Basset 代表取締役

東京大学大学院コンピュータ科学専攻修了。2013年度の未踏事業に「モバイル端末に特化した自動スケジューリング プラットフォーム」で採択。その後、複数のスタートアップ事業を経て、国内最大手の暗号資産取引所 bitFlyer にてCISOおよびブロックチェーン開発部長を歴任。2019年7月に独立し、暗号資産コンプライアンスを行うBassetを創業。

竹井さんがマネジメントしていたブロックチェーンのエンジニアチームは、8ヵ国もの多国籍メンバーから成り立っていたそうですね。

フルタイムの正社員10人に、インターン3人のチームですが、イギリス・フランス・チュニジア・ベルギー・オーストラリア・インド・中国・日本を母国とする人たちがいました。意図して国際的な多様性を狙ったわけではなく、「自分にないものをもっている人」を採用していたら、自然とこうなっていました。
私自身は2016年春にbitFlyerと出会いました。今は従業員数150人を超えていますが、私の社員番号は22番。まだまだ組織が小さかったころに入社しています。当時の私は、プライベート・ブロックチェーンmiyabi(ミヤビ)の前身となるプロダクトの設計・開発を、今も仲間であるイギリス人エンジニアと一緒に行っていました。そこから都度、そのフェーズで必要な技術や能力を備えたエンジニアを求め、1人ずつ採用してそうなりました。

「自分にないもの」とはどういうことでしょうか。

たとえば、最初に採用を決めたフランス人は分散システムが専門で、デンマークでPh.D.(博士号)を取得していました。コンピュータサイエンスに精通しており、面接でのホワイトボードを使ったあらゆるテストにほぼ完璧に答えた逸材です。分析力に優れる上、人間的に真っ直ぐでユーモアもあったので、この人を絶対に逃してはならないと思いました。その判断に国籍が関係することはいっさいありませんでした。複数の候補者の中で迷っていた当時の私の上司を説得して採用しましたが、それが結果として大正解で、チームに欠かせない中心的存在になりました。
その後に加わったメンバーとしては、新しいことへの好奇心が半端ではなく、学びに行く姿勢が人一倍強いベルギー人。彼はやると宣言した仕事を着実にこなすタイプで、人として信頼が置けます。それから、非常に落ち着いて安定感のあるチュニジア人。彼は、技術的に難易度が高いことを要求しても、冷静に課題を掘り下げて何かしら解決策を見つけてくれます。そして大事な右腕が、私の苦手な調整役を一手に引き受けてくれる気配りに長けた日本人。エンジニアとしての高い技術力を持ちながらも、外部との橋渡しを丁寧かつ手際よくこなすので、本当に尊敬しています。

写真.竹井さんがマネジメントしているブロックチェーンのエンジニアチーム

8か国のメンバーで構成されるブロックチェーンのエンジニアチーム

それだけ多様なエンジニアを採用時にどのように選考しているのですか。

レジュメ上で、性別・国籍・年齢・顔写真などは一切見ません。重要なのは何をやってきたか、それだけです。専門は計算機科学や情報科学あたりがベストで、次点が電子工学といったところでしょうか。面接では、コーディングクイズやコンピュータサイエンスの理論的な問いなどを提示して議論します。そうして思考の切れ味やコミュニケーション力を見ています。人間的な魅力や自信の有無なども、一緒に働く仲間としては大事にしています。

そうやって集まった国際色豊かなメンバー間で、どのようにコミュニケーションをとるのですか。そもそも竹井さんは帰国子女ですか。

メンバー間の会話はすべて英語です。 ちなみに私は日本生まれ、日本育ちの完全なるジャパニーズです。帰国子女でもなく、留学経験もありません。 語学として英語を学んだのは中学からでしたが、科目として単純に好きでしたね。 2005年と2006年に、高校生でしたが、Microsoft主催の学生ITコンテストのイマジンカップに出場しています。それぞれ世界大会が横浜とインドで開催されたのですが、それらが共通する趣味の世界の仲間と国籍を越えて考えを交わす原体験となりました。

思うに、プログラミング言語も、人が話す言語としての英語も、近いものがあるのではないかと思います。 私に限らず、エンジニアはいろいろな案件を手がける中でさまざまなプログラミング言語を扱っていきます。それは頭のスイッチを切り替えるようなもの。会話の言語でも同じことではないでしょうか。言葉なので日常的に使っていないとなまることはありますが、日常業務を英語で行う国際色豊かなエンジニアチームであれば、そのスイッチは存分に生かせるはずです。会話の言語とプログラミング言語というのは親和性が高く、エンジニアなら両方をうまく扱えると思います。

プログラミングにはいつ頃から触れてきたのですか。

子供のころからプログラミングが好きで、小6くらいからゲームを作って遊んでいました。趣味が高じて、中3の時にはMicrosoft MVPアワードを受賞しました。同社が個人の活動を評価する賞で、最先端の技術情報が得られるという特典があります。当時まだ歴史の浅かったC#が好きで、ネットの暗号処理に関する数学の記事を読んでは、それをプログラムで書いて遊んでいました。英語にも言えることなのですが、ある考えやコンセプトを何かの形にするといったことが頭の体操のようで、好きだったのです。Microsoft MVPは、製品の改善につながる提案活動などが認められると翌年も更新できるシステムで、結局、大学2年の2008年まで、5年間続けて受賞することができました。

大学4年の時にはGoogle Japanでインターンを経験しています。国際感覚や今の仕事のマインドセットにおいてはここでの影響も大きく、今のチームの作り方や運営のやり方の原点となっています。

それは興味深いです。Googleからどのような影響を受けてこられたのですか。

Googleは多国籍であり、みんな多様なスタイルで仕事をしています。面白いことに、コミュニケーションする言語が多様な一方で、コーディングルールは世界で厳格に統一されています。数万人のエンジニアが世界中にいて、それぞれ異なる文化に属しているからこそ、コードを書くにあたっては公式に細かい部分までルール化されている。その書き方に則っていれば、どの国や地域、文化の人であっても、どんな座組みでも共同開発ができるのです。これは私が、多国籍なエンジニアチームを率いるうえでも大いにお手本になっています。

そしてもうひとつ影響を受けたことは、お互いのカルチャーへのリスペクトです。現在のチームで言えば、イギリス人とフランス人は互いの文化を皮肉るようなジョークを日常的にも交わし合っていますが、それは相互に相手の背景に対する理解とリスペクトが存在するという高度な前提の上に成り立っているわけです。タブーに触れず、かといってよそよそしくなるのではなく、お互いを尊重して理解を示し合う態度こそがダイバーシティを可能にするのだと感じます。

エンジニアチームにおいて、国籍のダイバーシティがあることの「メリット」はなんでしょうか。

「常識を仮定しなくなる」ことです。これくらいできて当然だとか、分かって当たり前だということがないので、仕事をする上でも「丁寧に」なりますね。仕事の依頼は口頭でなく、チャットで文字に残したり、明確でなければ確認して進めるといったことが大切です。それがエンジニアリングでいえば、コーディングスタイルを統一しよう、ドキュメントを残そう、ということになるわけです。 一方で、デメリットもあります。メンバーのバックグラウンドの違いを尊重して民主的に物事を進めようとするあまり、決定までのプロセスに時間がかかることがあります。ミーティングで一人ひとりの発言に気を配り、尊重した上で、合理的な説明を加えてまとめ上げる必要があります。それはトップダウンで決めてしまうのとは正反対のアプローチですのでどうしても時間はかかります。ただ、時間や手間をかけるだけのメリットは大いにあり、デメリットよりもはるかに大きいと感じています。

国際的にダイバーシティ豊かなエンジニアチームをつくる上で、何かアドバイスはありますか。

「国籍や文化のダイバーシティを恐れるな」とお伝えしたいです。特に、スタートアップのようにこれからチームを作ろうとしているのであれば、早い段階から外国人を仲間に入れてしまうことをお勧めします。途中から風土ややり方を変えるよりも、「初めから恐れずに」がポイントだと思います。 もしいまの組織をこれから国際色豊かにしていきたいのであれば、あるメンバーの秀でた点を別のメンバーの前で認知して褒める、というのは有効です。「あの人のこの点が優れていると私は思っているが、あなたはどう思うか」といった言葉にするのです。そうすると、評価されていることがその人にも周りのメンバーにも伝わって、安心感につながります。多様な文化、価値観の人が集まったとき、人は自分の存在意義を自ずと問うようになるものです。だからこそ、明確に言葉にする、互いに言い合える風土が大事なのです。まずはそこからではないでしょうか。

今後のエンジニアームを考える上で、とても参考になります。ありがとうございました。

同じく、竹井 悠人さんが執筆された「ブロックチェーンの今と未来」も合わせご覧ください。

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