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新産業分野で新事業を創造するためには
新産業分野で新事業を創造するためには、市場環境を整えることが必要であり、市場環境を整えるためには、ビジネスと政策との連携は極めて重要となります。つまり、企業にとっては、「ビジネスガバメントリレーションズ」の戦略と実行が重要ですが、欧米企業に比べると日本企業のそれは全体的に遅れを取っています。
筆者は、2008年頃から、環境・エネルギー、農林水産畜産、まちづくり、医療、インフラシステム、クールジャパンなど様々な産業分野での産業政策の提言を行っています。2016年8月には、企業がビジネスガバメントリレーションズをうまく回していく一助となればと思い、『ロビイングのバイブル』という書籍を上梓しました。
第4次産業革命に突入
直近の産業政策の一番ホットな話題は「第4次産業革命」でしょう。2015年が第4次産業革命元年と言われていて、第4次産業革命では、IoT(Internet of Things)・ビッグデータ・ロボット・AI(Artificial Intelligence)等の新たなテクノロジーが、ICT(Information Communication Technology)に関わる産業だけでなく、その他のほぼすべての産業にも大きな変化をもたらすという意味で、「産業革命」という言葉が使われています。そして、第4次産業革命により、成長する産業/衰退する産業、増える仕事/減る仕事などがさまざまなところで議論され、日本国内の就業構造が大きく変化すると予測されています。また、国も企業も、今、ドラスティックな手を打たなければ、成長する産業や増える仕事が海外に流出し日本は空洞化するという議論もなされています。
注目すべき「4つの戦略分野」
日本政府は、2016年4月に『「新産業構造ビジョン」~第4次産業革命をリードする日本の戦略~』の中間整理を発表し、2016年6月にアベノミクスの成長戦略である『日本再興戦略2016』に第4次産業革命の戦略を盛り込みました。そして、2016年8月より、以下の4つの戦略分野を定義して、どの産業を重点的に成長させていくべきかについて議論を進めています。
1. 健康を維持する(健康・医療・介護)
- 個別化医療・健康ケアで健康寿命10歳延伸(バイオ、ゲノム編集)
- 医療・介護地域格差ゼロ(AI、ロボット等)
2. 移動する(モビリティ)
- 自動走行で移動弱者ゼロ(国内700万人)、事故死亡者ゼロ(世界125万人)
- 災害時の物質輸送等の緊急対応
- 渋滞による経済ロス、環境負荷を削減
3. スマートに手に入れる(ものづくり・保安・物流小売・農業)
- 「モノ」の「サービス化」、便利で買いたくなる新たなものづくり
- 多くの新たな担い手・ベンチャーの誕生
- デリバリー・サプライチェーンの効率性革命
- 新たな部素材の誕生
- 高付加価値農作物でグローバル市場を獲得
4. スマートに暮らす(住宅・エネルギー、街作り)
- 1家に1台サービスロボットが普及
- 家庭のリアルデータを集めて、多様な革新サービスへ(エネルギーのデマンドレスポンス・高齢者の見守り・商品購買予約のサポート等)
- 暮らしやすく環境にも優しい最先端のまちづくり
キャリアを考える軸としても重要
これから就職や転職をする方々にとっては、今後どういう産業が成長し、成長産業の中でどの企業が成長するかが最も強い興味のあるところでしょう。
就・転職を検討中の方々も、すぐに就・転職しない方々も、自分自身や自社の将来のために、これら4つの戦略分野で具体的にどのようなビジネス・企業が成長していきそうか考えてみることをお勧めします。また、4つの戦略分野の各戦略分野でのより詳細な議論が2016年9月より数ヶ月かけて進行中であり、本コラムでも各戦略分野の方向性などはレポートしたいと思います。
岩本 隆|慶應義塾大学大学院 経営管理研究科特任教授
東京大学工学部卒業。UCLA博士課程修了(Ph.D. in Materials Science and Engineering)。モトローラ、ルーセント・テクノロジー、ノキア、ドリームインキュベータ(執行役員)を経て、2012年より現職。成長企業の戦略論、新産業創出に関わる研究を実施。